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カンボジアで「つばさ橋」開通——ベトナム・カンボジア・タイが1本の道路でつながった

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カンボジアで「つばさ橋」開通——ベトナム・カンボジア・タイが1本の道路でつながった

カンボジアで「つばさ橋」開通——ベトナム・カンボジア・タイが1本の道路でつながった

2015年3月26日

カンボジアの首都プノンペンからメコン川沿いの国道1号線を車で1時間半ほど走ると、斜めに張られた黄色いケーブルが特徴的な橋が姿を現す。4月6日に開通式を迎える「つばさ橋(スピエン・ツバサ)」(注1)だ。日本の協力で2004年のプロジェクト開始から10年以上の歳月をかけて造られたこの橋は、2羽の鳥が手を取り合い、翼(つばさ)を広げているように見えることから、カンボジアと日本のさらなる関係発展を祈って、「つばさ橋」と命名された。

【画像】

工事のクレーンが外され、開通を間近に控えた「つばさ橋」

メコン川に分断された道から地域経済を支える大動脈へ

橋が架かる前は、車も人もフェリーに乗ってメコン川を渡った

日本の協力で整備が進められている国道1号線は、カンボジアで最も重要な幹線国道で、ベトナム最大の都市ホーチミンにつながる道路でもある。しかし、これまでこの道路は、ネアックルン地区でメコン川により分断され、川を渡るにはフェリーを利用するしかなかった。通常、フェリーの待ち時間は30分程度だが、繁忙期には3隻のフェリーをフル回転させても7、8時間待たなければならなかった。しかも夜間は、フェリーが運航を休止してしまう。国道1号線の利用者にとって、この地点は最大のボトルネックとなっていた。

つばさ橋は、主橋梁640メートル、橋長2,215メートル、取り付け道路を合わせた全長は5,400メートルに及ぶ。4月に橋が開通すると、利用者は昼夜を問わずこの道を使ってメコン川を渡れるようになる。近隣住民にとっては、病院、学校、職場などへのアクセスが大きく改善する。

しかも2015年末にASEAN経済共同体(AEC、注2)が発足すると、カンボジア国内だけでなく、国境を越えた人と物の往来がますます活発化することが予想される。国道1号線は、同じく日本が支援する国道5号線と合わせ、ベトナム、カンボジア、タイをつなぐ南部経済回廊の要衝として、メコン地域の経済成長を支える大動脈を担うこととなる。

さまざまな困難を乗り越えて

建設中のつばさ橋

つばさ橋の建設プロジェクトは、2003年に当時の川口順子外務大臣がネアックルン地区のメコン川に新たな橋を建設する支援を表明したことをきっかけに始まった。JICAは、プロジェクトの最初からかかわり、橋をどこに架けるかを決める際には、関係者に対するカンボジア政府の説明会を支援し、現地NGOへの説明や協議なども行った。

橋の建設工事が始まると、現場ではさまざまな困難に直面した。その一つが、2012年7月に起きた不発弾の爆発だ。つばさ橋の建設地付近には、1970年代後半にカンボジアを支配したポル・ポト派の弾薬庫があった。工事が始まる前に4,000発以上の不発弾を処理していたが、完全には除去できず、工事中も細心の注意と安全対策を取りながら撤去作業を行っていた。そのような中、掘削工事中に地中10メートルほどの深さで爆発が起きた。幸い負傷者は出なかったが、工事を4ヵ月近く中断せざるを得なかった。不発弾の処理には、日本が支援しているカンボジア地雷対策センター(CMAC)が重要な役割を果たした。

「工事は水との追いかけっこだった」と振り返るのは、つばさ橋の建設工事を指揮した三井住友建設株式会社の北田郁夫プロジェクト・マネジャー。雨期と乾期で水位が7メートルも異なるメコン川での工事は、容易ではなかった。特に、杭(くい)と橋脚を接合する「パイルキャップ」と一部の橋脚の施工は、乾期のうちに完了させる必要があった。この機を逃すと、雨期が明けるまで1年も待たなくてはならいからだ。さらに2011年には、カンボジアで過去最大ともいわれる大洪水が起こり、架橋工事を行っている部分の川岸が30メートルにわたって削り取られてしまった。また川の流れが非常に速いことも、工事関係者たちを悩ませた。

このようなさまざまな困難を乗り越え、ようやくつばさ橋の開通を迎えた現在、建設にかかわった人たちの感慨もひとしおだ。エンジニアとして携わったチェン・シナンさんは、今年1月、橋がつながるのと同時に娘が生まれた。「いつか大きくなったら、『お父さんが一生懸命働いて造った橋だよ』と話したい」と言う。工事現場事務所の会計係として働いたキム・タロンさんは、「橋が完成して、本当にうれしく、誇らしい気持ちだ」と語る。職場で知り合ったエンジニアのカンボジア人男性と結婚したタロンさんは、橋を見ると温かい気持ちになるという。

カンボジアに架かった二つの橋

2001年に完成したきずな橋

カンボジアで日本の支援によりメコン川に橋が架けられたのは、今回が初めてではない。プノンペンの北東部に位置するコンポンチャムには、2001年に日本の協力でできた「きずな橋」がある。この橋の開通で、農産物の産地である東北地方から首都までの交通が大きく改善された。現地では「スピエン・キズナ」(注1)という名前で親しまれており、現地通貨の500リエル札にも描かれている。つばさ橋の開通を機に発行される新500リエル札には、カンボジア・日本の国旗と共に、きずな橋とつばさ橋が描かれる。カンボジア国民にとって、二つの橋がますます身近な存在となるに違いない。

JICAは今後も、国際物流に欠かせないインフラを整備することで、メコン地域の物理的連結性を高める取り組みを進めていく。


(注1)「スピエン(Spien)」はカンボジア語で「橋」を意味し、「ツバサ(TSUBASA)」は日本語の「翼」。日本がカンボジアで支援したもう一つの橋、「きずな橋(スピエン・キズナ)」の「キズナ(KIZUNA)」は日本語の「絆」。

(注2)安全保障共同体、社会文化共同体とともに、2015年設立を目標とする三つのASEAN共同体の一つ。

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